インド市場の魅力【コラム】
チャイナリスクが顕在化して以降、日本企業の海外進出の行先は東南アジアへシフトしつつあります。しかし、市場としての1ヶ国あたりの経済規模を考慮すると中国には遠く及びません。そういう視点から見ると、2028年に人口で中国を抜いて1位になると推計されているインドはいかがでしょうか? |
個人的には2005年・2011年と2回インドに行っているのですが、その6年間での発展ぶりは驚異的で、2回目にデリーの空港に着いた時には前回と違う空港に来たのではと思ったほどでした。そして変わっていないのはとにかく人と動物が多いということです。移動中は、鉄道、自動車を問わず、窓の外はどこにいっても人、牛、ヤギばかり。
さすがに世界第2位の12.4億人の人口を抱える国だけあると思います。そして市場として見た場合に魅力的な要素がその中位年齢、すなわち人口を年齢順に並べて、その真ん中で全人口を2等分したときの境界点にある年齢が25歳程度と若いのです。他のアジア諸国との比較はこちらをご覧ください。
そして急激な経済発展に伴う中間層の拡大により、若い層を中心とした消費のスタイルも変化ししつつあります。例えば都市部では商業施設におけるクリスマスフェアも定着しつつあります。日本同様に宗教的な意味合いはありませんが、ショッピングモールにプレゼントを買いに行き、家族でパーティを楽しむという先進国と同様の消費スタイルが当たり前のものになりつつあります。
インドのこの消費拡大を支える経済発展の仕方が、実は中国や東南アジア諸国と大きく異なるのです。通常、発展途上の国では一次産業の比率が下がり、二次産業である製造業の比率が上がるケースが多いのですが、インドの場合は三次産業の伸びが著しく、経済の50%を超えています(出展:経済産業 通商白書2007)。ITやコールセンター、そして消費者向けの小売・サービス業の発展がこの成長を牽引しているのです。また、長年規制のせいで大規模な工業化が進まなかった製造業でしたが、今世紀になってからは自動車、製薬、鉄鋼等の分野で大きな発展を遂げています。
その反面、インドは深刻な問題も抱えています。中国同様に都市部と農村の格差が大きく、識字率等の教育問題があり、エネルギーやインフラ整備が慢性的に不足しており、様々な規制もまだ残っています。しかし、逆に考えればそれだけの伸びしろのある市場という見方もできます。
そんな中でとてもユニークなビジネスモデルをもつティープラントを視察することができました。ケララというインド南部にあるこのティープラントはかつてはタタが所有していたもので、従業員持ち株会にプラントを売却し、現在はカナン・ディバン・ヒルズ・プランテーション・カンパニーという会社にて自主運営を行っています。
そしてこの会社は障害者のための学校、障害者が働ける工房を運営しており、地域社会から尊敬される存在です。この取組みによって、タタは売却益を得ただけでなく、安価での茶葉仕入のルートも残し、そして地域社会から尊敬を勝ち得ました。貧しい小作農の社会をビジネスによって豊かにするという稀有な事例かもしれませんが、このように地域に根差した改革がインド市場のこれからの可能性を示していると思われます。そして、このようなインドの社会発展に貢献できるような日本企業の進出が望まれているのではと思います。
長谷川 靖志